残り少ない大切な歯
歯周病が進行すると歯槽膿漏にまで行きつき、歯はかなりの動揺を起こします。
骨に植わっている根っこの長さは1ミリから2ミリ程度にまで減っていることも多く、ほとんどのケースでは歯を抜いて入れ歯を作ることになります。
部分床義歯は残っている歯にクラスプ(金属のバネ)をかけて安定させますが、動揺が強い歯にクラスプをかけるとその負担のために歯が自然に抜け落ちることもあります。
しかし部分床義歯は歯にクラスプをかけることで安定感を増しますので、仮に揺れが強く出ている歯でもそのまま残した状態で入れ歯の歯型を採得します。
歯型を採るときはアルジネート印象材を使用しますが、粉末の印象材と水を練和した時は柔らかいものの、硬化するとある程度の弾力と硬さが生まれます。
そして硬化した時点で印象トレーを口腔内から外すのですが、歯槽膿漏が進んでいる歯はこの印象材にくっついて抜けてしまうことがあります。
取り外した印象材に抜けた歯が突き刺さっている光景は、印象採得をした術者にとってまさに血の気が引く思いです。
骨にほぼ植わっていないために出血することはほとんどありませんが、残っているわずかな歯を歯科医師以外の者が抜いてしまったわけですから、大きなショックを受けることは察するに余りあります。
抜けることを予測していながら採得させる歯科医師
しかしながら印象材を外したことによって一緒に抜ける歯なら、歯科医師はその可能性を十分に予測していると考えていいでしょう。
分かっていながら敢えて何も言わずに印象を採らせているとしたら、歯科医師の人格を疑う必要も出てきます。
また中には印象をしたら抜けるかも知れないから気を付けるようにと、あらかじめプレッシャーをかけてくる歯科医師もいます。
実際にあった話ではアシスタントが印象を採って外した際、残っていた前歯4本がすべて抜けてしまい、ショックで気を失ったという事例も報告されています。
患者も麻酔なしで抜歯されるようなものですから痛みを伴い、出血も起こしたとのことで、歯科医師が急いで対応し後日全部床義歯となりました。
ある程度の経験を積んでいるアシスタントであれば、見ただけで抜ける可能性を察知します。
そこで外す時には印象トレーの間にエアーを吹き込むなどして、できるだけ外しやすくできるよう試みます。
うまく歯を残してトレーを外すことができたとしても、そのような患者の印象採得をさせる歯科医師に対する不信感が大いに募ることだけは間違いありません。